You are in rock. still…

*まだいしのなかにいる*

マーロウ70歳

 あれだけ殴られたり、撃たれたりもして、それでも決して挫けることなく。何度も立ち上がってきた男だ。そうだろう、そうだろう。君はまだ生きていたのだね。久々にその名を聞いて思わず手に取ってしまったよ。

おや?この表紙の『杖』のシルエットはなんの冗談だい?

都会の夜の街を、猫のようなしなやかさで駆け抜けた男。けっして人に委ねることなく、奢らず、自分のプライドのみで生きてきたんだね。その君も70の歳をこえ隠居のような生活を送っていたとは。いやはや、、、退屈は猫をも殺す。

ひょんなことから舞い込んだ依頼に、君が飛びつかないはずはない。そんなつれない素振りを見せてたって、ダメだぜ。どんな事件であっても依頼は依頼だ。こんな老いぼれに何を今更、、、だなんて、そんな自分を卑下してみせるもんじゃない。もう受ける気でいるのだろう。

ほら、杖を握るその手がキツく握られているぜ。ちゃんと筋の通った依頼であれば、君は決して背を背けない。なぜなら礼儀をつくし君を頼ってきた者を、君は手ぶらで追い返したりしない。それに時間はたっぷりあるんだろう。あ、そうかお金もたっぷりあるんだったね、ら無理に働く必要もないか。

でも、君はやっぱり依頼を受ける。一人。その足で事件の核心へと歩んでいくのだね。

 というわけでマーロウの新作。なんと御年72歳のマーロウだ。歳はとっていても、ロマンチシズムは熟成されこそすれ、老化はしていない。それどころか手にする杖は座頭市も真っ青の仕込み杖だ。確かにドンパチする歳ではないなー、ああ、君の活躍した、あの暑い季節が匂いとともに蘇ってくるる。

僕がマーロウ物にどっぷりと填まっていたのは中学生の頃だったかも知れない。もう探偵小説なんてのめり込む歳じゃなかったのだが、マーロウは違った。トリックや、推理、撃ち合いもどうでもいい。ただただマーロウの生きていく様に憧れただけ。

長編はそれほど多くは無い、短編はというと、山ほどあったが。僕は長編のマーロウにしか惹かれなかった。マロリーではなくマーロウなのだ。しかし何十年の経過だ?うん。良かったよ、まだあなたが生きていることだけでも伺い知れて。

なので。誰にでも勧められる小説ではない。だがマーロウという名に、興味ある方は是非読んでみて貰いたいと思う。そうだハードボイルドってこんなだったんだよ。あの頃から僕もずいぶんと歳老いたが、あの憧れた彼の背中を、僕は全然追いかけることが出来ていない。

ただの眠りを、、、だなんて。君には望むのは早すぎる